「MOUNTAIN RESEARCH」小林節正が語るキャンプの楽しみ方
MOUNTAIN RESEARCH主宰、キャンプの達人である小林節正氏がプロデュースするキャンプ場「水源の森キャンプ・ランド」と「あめつち」がコラボした「キャンプ飯」プロジェクトが始動。キャンプ場でも簡単にプロの味を楽しめるワンパンキャンプ飯ミールキット誕生の背景と「水源の森キャンプ・ランド」に込めた思いとは? 「あめつち」代表・戸簾俊広が小林節正氏に聞いた。
身ひとつで気軽に行けるキャンプ場を目指して
戸簾俊広(以下、 戸簾):そもそもこのキャンプ場「水源の森キャンプ・ランド」を手がけるにあたり、こうあ るべきというようなコンセプトなり、構想のようなものはあったんでしょうか? 僕の友人 のキャンパーが実際行ってみて明らかに他のキャンプ場とは違うと言ってましたが、小林さんイズムがあるのかなと。
小林節正(以下、小林):イズムってほどのものはないです(笑)。そもそもキャンプ場のディレクションをすることになるなんて考えたこともなかったから。ただ 思うところはあって. . . 一般的な話だけど、キャンプ場に行くと、「〇〇禁止」って至るところに書いてあるでしょ?それがあんまり好きじゃなくて、〇〇禁止を書いてないキャンプ場がいいなっていうのはあった。それと、ここ道志村は9割がオートキャンプ場だけど、自分が国内やアメリカでこれまで見てきたのは、車が全く介在しない?しえない?完全な山側のキャンプ場やキャンプサイトばかりだったんで、車があるキャンプ場のほうが逆に不思議 な景色に見えてたんだ。
キャンパーのみんなにはルーティンの装備があるだろうから持ってくるギアや道具もそれなりの量感になるんだと思うんだけど、ここはそれをパーキングからキャンプサイトまで(自らの手で)運びいれないといけないキャンプ場なんだよね。何度が訪れるうちに様子がわかってもらえると思うけど、“何を持って行くかを考えるより何を持って行かないかを考える場所”という設定にしてある。もちろん持っ て行くほうの気持ちはすごくわかるし、それがキャンプの醍醐味でもあるんだけど. . .でもやっぱり持ってかないものを考えたほうがきれいじゃない(笑)?
駐車場への道。HOLIDAY IN THE MOUNTAINの看板が出迎える
バックパックも同様で、もう亡くなってしまいましたが、作家の田渕義雄さんが、バックパッキングっていうのは何を持って行くかじゃなくて何を持って行かないかを決める作業なん だと本の中で語っていて、ここもそんな感じだよ。テントに車横づけが当たり前の地区で内輪も含めいろんな人に文句言われながらも(笑)、あえて車のない景色のほうに一票入れてる感じにいずれ気付いてもらえるといいなって思ってる。そんな場所だし、2回目以降も来てくれるのは「不便だけど仕方がないか. . . 」って人たちにおのずとなるだろうから、そこが自分の中で執拗にこだわるポイントというか、自分がやるなら、そういうキャンプ場をやりたいとは、最初から思ってんだよね。
小林氏のキャンプ道具一式
戸簾:それでも駐車場横のクラブハウスからは、バギーで送迎してくれるサービスはありま すよね。それは後から考えたんですか?
小林:面倒だけど、通過儀礼みたいなことで(笑)。駐車場で荷下ろしして、サイトまでこっちが専用のカートで運ぶけど、基本は自分の装備は自分で運んで、設営して撤収して、また自分で車に積んで帰るっていうことの達人になってくれる人がリピーターとして来てくれるようになるんだろうなと想像してます。
基本テントは1人で設営するという小林氏。慣れた手つきであっという間に完成
戸簾:確かに知人のキャンパーも2泊はしたいって言ってました。
小林 :嬉しいですね。そもそも中1日、丸々24時間その場所にいられる状態のほうがキャンプは面白いと思う。1泊で設営して撤収して家帰って機材や道具を掃除してとなると、疲れちゃうだけでしょ?僕はすごい飽き性だから、なるべく飽きないようにと考える。キャンプの設営を繰り返さなくていいようにと、長野の山間に土地を見つけて(週末だけでも)キャンプできる場所を作って、必要な道具はそこに全部置きっぱなしにして、行くときは食材だけ買っていけばいいっていう。そうすれば飽きずにずっとやっていられるんじゃないかなと思って。とにかくずっと継続していることじゃないと、スタイルも出てこないし身にも付かないし、 馴染まないじゃない。だから場所代はかかっちゃうけど、できるなら2泊してもらって中1日はずっとここにいるか、周辺にいてみてほしいなと。そういう関わり方をしてもらえるのが理想です。
水源の森キャンプ・ランドのラウンジ的なスペース、クラブハウスのエントランス
戸簾:クラブハウスも1人で本を読める空間だったり、1人の時間を楽しめるホテルのラウンジみたいな雰囲気もあるから愛着が湧きやすい空間のような気がします。
小林 :コロナ禍の中でベランダキャンプって流行ったじゃない?その延長線上にあるキャンプ場がいいなと思いました。まだ途中だけど、ヴィンテージから現行 品まで自分が好きなものをセレクトショップのような品揃えで用意して貸し出すつもりです。身軽に思い立ったときに、軽装備でぱっと来てくれて、1泊ないし2泊して帰れるような、飯もあれば食器もあるし、テントも貸してもらえる、そんな場所にしたいなと。キャンプ場じゃなくてキャンプランドと言ってるのはそういう意味も込めている。
Anarcho Cupsの工場で制作された国内最大級のヘラ絞り火皿
身一つで来たとしても、ちゃんと受け入れてもらえる場所があれば面白いなというのが描いたイメージ。僕はソロが好きだから、なるべく少人数かソロがいいんだけど、ひとりで来て、スマホを充電してる間に本を読んだり、ビールを飲んだり . . . っていう何もせずに過ごす時間を楽しんでもらえたらいいな。売店にはビールもコーラも瓶しか置いていないんだけど、缶が当たり前の中、瓶ならではのちょっぴり懐かしい感触とか、ひとりだといちいち噛みしめられるじゃない(笑)?そんなことも想像して. . . ソロで気楽にさっと来てもらえるような、ベランダの延長線のような空間がいずれ出来上がるといいなと。
クラブハウスには、中目黒カウブックスの山系セレクションの本が並び、
マウンテンリサーチの別注キャンプ用品や木工集団ティンバークルーによる木製品の数々を楽しめる。
キャンプ場というあつらえではあるんだけど、一番自分らっぽい場所。中目黒にあるウチの店のようでもあり、COW BOOKS(カウブックス)っぽくもあるし、こういうことは普通のキャンプ場ではできないし、自分たち目線にはなるけど、身近に感じられるっていう点では僕たち的には一番ベランダ感溢れる感じじゃないかな。壁に掛 かっている時計もロンドンのヴィヴィアン・ウエストウッド(Vivienne Westwood)の ショップ「WORLDS END」の入り口にかかってるのをモチーフにして、13時間表示の逆回転にして。僕らはああいうのが好きで育ったから。時計としては全くもって役に立たないんだけど(笑)。こちらの気持ちとしては、キャンプの時くらい時間を気にしないでも らいたいっていう思いを込めてる。
左手前:MOUNTAIN RESEARCH主宰・小林節正 右奥:あめつち代表・戸簾俊広
戸簾:クチコミ紹介による、知る人ぞ知るキャンプ場ですよね。
小林:みんなに来てくださいっていうよりは、この形態でもいいなら来てっていうぐらいのスタンス。車は横付けできないし、斜面ばかりで荷物運ぶのも大変。でも来てもらうためのアイデアはフルセット出してあるから、それをいいなと思ってくれた人がもう一度来たくなるような、合う人とは相性のいいキャンプ場になってればいいと思っています。
簡単にプロの味を再現!キャンプ飯ミールキットができるまで
戸簾:キャンプ場でも気分のあがるご飯を提供できたら喜ぶ人たちがいるんじゃないかなってという思い付きから、ワンパンキャンプ飯の企画を提案させていただきました。実際キャンプ場での調理はゴミを出さないようにできるだけ下処理をして持って行ったり、先ほどのお話のように、そもそもモノを持っていかないということと、ミールキットを販売するというアイデアは相関関係があるように思いました。
食べ応えあるみやざき地頭鶏のミールキット「骨付き鶏もも肉の白ワイン煮」
小林:キャンプ場では忙しくせずゆっくりしてもらいたいから、食事にしても、0から作るより、ミールキットのようにある程度作られた状態の、味の方向が定められたものを作ったほうが時間にも余裕ができていいに決まってる。そもそも、僕はおざなりのキャンプ飯にな ることが多いから、予約しとけば届くミールキットが選択肢としてあるってのは最高に嬉しいよね(笑)。
ダッチオーブンでミールキット「鶏手羽元と季節野菜のトマト煮」を調理
戸簾:鶏肉料理や牛の赤ワイン煮などメニューは小林さんにアイデアをいただきましたが、 何かイメージがあったんですか?
小林 :例えば、ワインを楽しみたいような時はあるけど、後からそういう気持ちになっても目の前にそれに合う料理なんて出てこない。ミールキットなら面倒臭い思いをしなくても、プロが下ごしらえをしてくれた料理にたどり着けるわけだからキャンプ飯によくないかな?って。
戸簾:ペアリングでいうならば、日本酒なら今度は和食にフォーカスしたり、和洋中がキットとして揃っている中からチョイスできる状態になると、ちょっと幅が広がるかもしれない ですよね。
小林:いいと思う。今回のキットでイタリアンはいい味にたどり着けるのが分かったから、今度はチキンビリヤニみたいなインドではよくみんなが食べているものとか . . 気取ったものである必要は全然ないんだけど、世界中のカジュアルな定番料理をキャンプ場で簡単に食べられるようになったら楽しいよね。ごはんで周る世界、世界カジュアル飯集みたいな(笑)。
戸簾:まさに「キャンプランド」ですね。
水源の森キャンプ・ランドとは
シンプルな暮らしを手軽に実験できる場所になるようにと小林氏自慢の出来上がりとなったキャンプ場。キャンプ場のクラブハウス内では、水源の森限定販売のアイテムを含むマウンテンリサーチ のキャンプ用品とカウブックスの山系な特別セレクションが並び、小林氏が手がける国産のキャンプ用金属食器アナルコカップのヘラ絞りと同じ工場で作られた日本最大の大きさの火皿の中で燃える火を眺めながら、“Holiday in the Mountain” な景色を満喫できる施設。
住所/山梨県南都留郡道志村馬場5821-2
予約サイト/https://www.doshisuigen-mori.com/
instagram/@suigen_no_mori
小林節正(Setsumasa Kobayashi)
山の暮らしをテーマに謳う「MOUNTAIN RESEARCH」を活動の根幹に、多岐にわたるリサーチを 包する「. . . . . RESEARCH」主宰。それぞれのカテゴリーでテーマを掲げ、入念なリサーチをベー スにコレクションを製作。キャンピングファニチャー〈Holidays in the Mountain〉、歩くためのギア コレクション〈Anarcho Pax〉、ステンレスキャンプ食器の〈Anarcho Cups〉、山靴に特化した「 SEtt for Mountain Boots」、ウールブランケットの「Horse Blanket Research」などを展開。自身が 所有する長野県川上村のプライベートキャンプ場での山の暮らしぶりは、自身のブログにて、年間を通じ報告されている。2020 年、山梨県の道志村 に30 年ほど前にできたレクリエーション施設跡地に、キャンプ場「水源の森 キャンプ・ランド」を プロデュースし、木工集団TIMBER CREW と共に運営会社となるCAMP CREWを設立。
Photos:Yu Inohara Edit&Text:Masmi Sasaki Assistant:Tomomi Murata