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こだわりの野菜ブランド「タケイファーム」というストーリー


2021.02.14

ナス フィレンツェを選別しながら収穫する武井敏信氏

「あめつち」第一弾として発表した「究極のポテトチップスとフライドポテト」。ジャンクフードでありながら究極という相反する要素を可能にしてくれたのが、栽培した野菜はほぼ一流レストランにしか卸していないというTAKEI FARM(タケイファーム)代表の武井敏信さんが作った、ポテチのために生まれた品種のじゃがいもだった。

武井さんは、日本におけるアーティチョーク生産の第一人者として料理人の間では知る人ぞ知る存在。農業を始めて20年、独学で栽培を学びながら一度も営業せずにたった1人で、千葉県にある2つの農園を切り盛りしている。

そもそも武井さんの農業とは、私たちが知っているような、いわゆるステレオタイプな農業とは違う、型破りな全く新しいスタイルだった。武井さんの農業に対する考え方はこうだ。

作業は基本全て1人で行う

「どこで、何人で、どのくらいの規模でやるのか。何を作り、どこに販売するのか。農家それぞれの自分に当てはまった環境の中でやっていく。農業に正解、不正解はない。自分のやり方が正解。僕もやりながら他の方法があるんじゃないかとヴィジョンが変わってきて今に至っている。露地で作るのも元々はハウスがなかったからだけど、自分の都合のいいように言えば、季節の野菜を大事にしているから」

昨今、食材の生産背景に対する消費者の意識は高まり、一部ではオーガニックは善、そうでないものは悪というような偏った見解も多々見られる。タケイファームの野菜はもちろんオーガニックだが、わざわざそれを謳わない。武井さんに言わせれば、もうオーガニックで野菜を売る時代ではないし、栽培方法として必ずしもオーガニックだけが正しいわけではないという。では何をウリにするのか?それは「タケイファーム」というブランド力。そこまで強気に言い切るのには、武井さんならではの揺るぎない哲学があった。

「タケイファーム」ブランドというストーリーを、武井さんの言葉と共にひも解いてみよう。

アーティチョークはタケイファームのシグネチャー野菜

強みの野菜を持つこと

そもそも武井さんの名が広まったきっかけでもある、シグネチャー 野菜のアーティチョーク。数ある野菜の中でなぜアーティチョークだったのか。

「新しく農業を始めた人が自分のブランドを持つときに、例えば『俺は日本一のほうれん草農家になるぞ』と思っても、ほうれん草を作っている人は、それこそ既にレジェンド級の人がたくさんいるわけ。だからほうれん草で名をあげるのは難しい。でも日本中の全員が食べなくてもいいから、一部の人が気になっている野菜は絶対いくつかあるので、それを作ってそのエキスパートになればいい。

5月に出荷を迎えるアーティチョーク

僕の場合はアーティチョークがその一つだった。でもアーティチョークは初夏の野菜なので、せっかくアーティチョークでうちのことを知ってくれたシェフがいても、冬は知ってもらえない。だから冬にはサフランやサボイキャベツといった季節ごとのスペシャリテを作るのが重要」

冬のタケイファームのスペシャリテ、サボイキャベツ

栽培する野菜の決め手

とにかく試す

「うちは露地栽培なので年1回しか作れない野菜も多く、ナスだけを作るとしたら10種類作るのに10年かかってしまう。それでは時間がもったいない。1年に一気に10種類作れば、5年で50種類。そうやって試した中から自分の畑に合うもの、好みの味、作りやすさ、レストランのニーズといった要素を加味してベストなナスができる。だからまずは試すことが大事」

こんなに小さな葉にバジルの風味が濃縮しているブッシュバジル

珍しい野菜を探す

「通常、種メーカーが出しているカタログを見て種を仕入れるのが一般的なんだけど、それだと既に5年遅れている。なぜなら種メーカーは新しい品種の種があると、まだ品番しかない状態で農家に渡して、試作段階で何年も前から育て、それからカタログに掲載されるから。だから僕が品種を選ぶときは、例えば、普通ブロッコリーは緑だけど、『ブロッコリー、ピンク』でネット検索してみる。そうするとたまに引っかかることがあるので、そういう物を探して作ってみたり、黒い野菜のお皿があったらかっこいいなと思って、『黒、野菜』で検索したりする」

シェフの料理を研究する

「シェフが見たり、出てるような『料理王国」といった雑誌を見る。例えば、雑誌にどこかのお店が出たりすると、そのシェフは渾身の一皿を見せるので、そこにどんな野菜が使われているか、どんなサイズなのかを調べる」

オクラ 島の恋もこのサイズがタケイファーム規格

旬の野菜を先回り

露地栽培のタケイファームでは、季節の野菜を大事にしている。それはレストランも同じで、旬でおいしいものを使いたいというのが大前提だ。ただ料理人が求める「旬の野菜」に応えるのには難しいこともあるようだ。

アスパラや空豆など春の野菜について言うと、タケイファームのある千葉では大体収穫は4月の終わり。けれどレストランは初物で作りたいから、早いところだと2月、3月で空豆ブームが終わっていて、5月前半に出しても、もう使ってしまったから次の食材を探しているという。そこで、武井さんが思いついたのが、空豆の葉。葉もしっかり空豆の味だから、豆だけを食べるのではなく、葉っぱをペースト状にしてパスタに練り込んだら、それこそ空豆のパスタができる。そういう新たな使い方を自ら発見し、提案することで、新しい野菜を常に探し求めているシェフたちを触発しているのだ。

加熱することでトロけてしまう果肉と力を入れずにナイフで切れてしまうほどの皮の柔らかさが魅力のイタリア生まれのナス、フィレンツェ。

「迷ったら捨てる」がルール

露地物は天候条件に左右されるし、虫食いなどもあったりと、きれいな見た目をキープするのは難しい。しかし、武井さんにとっては想定内。そもそもニンジンを100本作って、そのまま100本出荷しようなんてはなっから考えてないから。

「農家によってはロスを出さないために必要なら消毒をする、それはそれで農業の一つのあり方なのでOK。ただ僕は100本作って30〜40本しか収穫できないことを想定して種を撒いているので、NGなものは抜いて捨ててしまう。昔から思っているのは迷ったら捨てる。例えば選別したときに、ちょっとどうかなと少しでも思ったものを、仮にOKに分類してもやっぱりまだ迷っている。『さっきの引っかかるな』と自分の中で迷いがあったら捨てる、自分で食べて消滅させる。このルールは農業を始めた20年前と変わらない」

サフランの球根の仕分け作業。11月ぐらいから芽が出て花が咲いたらめしべを収穫する

シェフが選ぶ野菜を仕掛ける

フィレンツェという品種のナスを収穫する様子を撮影させてもらった。素人目には大きくて立派なナスも武井基準ではNG。大きいナスはお皿としては量がいっぱい取れるが、その分、種が大きくなってしまうから見映えがよくない。つまりタケイファームの正解は小ぶりなのだ。他にも収穫する野菜の見極め方はお皿に乗ったときにかっこいい形であること。どこの誰々シェフだったらこうやって使うだろうなと料理をイメージしつつも、基準はあくまでもセンスであって、自分の好みの形でしかないという。

サイズがきれいに揃っているニンジンミニ

「ニンジンでも小松菜でも野菜には規格サイズがあり、生産者はそれに合わせて作っているから、それを外れると世の中に出回らない。その上、調理法まで決まってしまうこともある。小指くらいの太さの人参をわざわざ乱切りしたりする人はいないし、そのまま縦割りに切るか1本のまま使うか、サイズによって使い方も変わってくる。だから料理のお皿によって、うちのニンジンはカレーには使えないけど、トッピングとしてちょっとしゃれたお皿にするには使える。結局はシェフがどっちを選ぶか」

シェフと武井さんの感性の駆け引きゲームを見るかのようだ。レストランで出合う一皿に、そんなビハインドストーリーがあるとはなるほど奥深い。

シェフとガチで勝負する理由

野菜の選定から収穫の基準まで独自の流儀を突き進む武井さんだが、販売先をレストランに特化した潔さも、セルフブランディングの重要なポイントだ。なぜ卸先をレストランにするという選択をしたのか。

「農業の地位を高めたいという目標があって。そのためには自分一人でやっていくよりもシェフの力を借りるところがすごく大きい。今は有名シェフと呼ばれる人はたくさんいて、彼らがメディアを通じて野菜の話をすると農家もいいなっていうイメージになる。最近はいろんな生産者を回っているけど、全国には一流の考え方をもって取り組んでいるかっこいい生き様の生産者がたくさんいる。そういう人に出会うとシェフに紹介したくなるんだよね。いいものをもっと日の当たる場所に出して、いろんな人に食べてもらって、その価値を知ってもらいたい」

目も舌も肥えているシェフと取り組むということは、必然と求められる野菜のハードルも上がってくるはずだ。

「彼らはアンテナ張っているので、市場や八百屋はもちろん、いろんな生産者がいるし、イタリアンならイタリアから輸入野菜も使っているわけ。だからそういう中でうちの野菜を使ってもらえるのは光栄なことで、自信にもつながる。十数年前、レストランに初めて使ってもらったときは、ものすごい嬉しかった。これから農業を始める人、始めたばかりの人には、そういう自信をつけてもらいたい。僕がもしずっと市場出しをしていたら、それも一つの農業のあり方だけど、今頃もう農業をやってないかもしれない。レストランに卸してシェフと付き合うということは、緊張感もプレッシャーもあるけど、やっぱり楽しいし面白い」

就農する前は、車の営業マンをしていたからこそ、二度と営業をしないというスタンスを貫き、自分なりの農業のストーリーを紡ぐまでには紆余曲折もあったに違いない。やりながら活路を見出し、日々一流レストランのシェフと勝負することによって、切磋琢磨されながら、「タケイファーム」というブランドは築き上げられた。そして、武井さんはこれからも農業の面白さを追求し普及させていくのだろう。

タケイファーム代表 武井 敏信 子どものころ、一番やりたくなかった「農業」という職業に就いて20年目。今まで350種類を超える野菜を栽培し、年間栽培する野菜は140種類以上。農業の奥深さに惚れ込み、「野菜創りに終わりはない」という思いのもと、おいしい「品種」にこだわって農業を経営している。「ひとつの野菜でさえも、人の人生を変える力を持っている」ことを多くの人に伝える、ベジタブルエバンジェリストであり、ベジタブルデザイナー。2014年3月、一般社団法人「Green Collar Academy」理事就任。2017年11月、京都府和束町PR大使就任。マイナビ農業にて「営業しない農家の売り上げアップ術」連載中。 instagram/@takeifarm_insta

Photos:Aya Kawachi Edit&Text:Masumi Sasaki


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